2024/08/30
自宅で行える摂食嚥下障害に対するリハビリ②~経口摂取するにあたっての5つのチェックポイント
前回、自宅で美味しく・楽しく・安全に「食べる」ために、摂食嚥下のメカニズムと、食べることが難しくなると起こることについてお話しました。2回目は経口摂取を行うにあたって注意すべきポイントを言語聴覚士が5つにご説明して分けてご説明していきます。ケアの方法だけでなく、姿勢や食べる食材の種類などいくつかの気を付けておくべきポイントがありますので、ぜひ参考になさってください。
目次
経口摂取するにあたっての5つのチェックポイント
「食べる」とは、認知期、準備期、口腔期(こうくうき)、咽頭期(いんとうき)、食道期、と5つの期を経て、口から胃まで運ばれています。
(「自宅で行える摂食嚥下障害に対するリハビリ①」参照)
この一連の工程の中で、どの部分が障害されても「上手に食べることができない」「飲み込めない」といった摂食嚥下障害(せっしょくえんげしょうがい)が起こります。
これらの工程をスムーズに進めるために5つのチェックポイントがあります。
それは、
①口腔ケアの方法
②食事の姿勢
③食事形態・水分形態
④食事介助の方法
⑤食事をする環境
です。ひとつずつみていきましょう。
チェック1
:口腔ケアの方法
口腔内の汚れは誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)の原因になります。
口から食事をしていない方でも、実は口の中は細菌等で汚れています。
口の中に食べ物を入れる前には、必ず口の中がきれいなのか否かしっかり確認しましょう。
口腔ケアに必要な物品
1)歯ブラシ(全介助で行う場合はブラシが小さめのもの。自己で行う場合は大きめのものがよりよい)
2)スポンジブラシ(うがいが難しい方のふき取りに使用)
3)舌ブラシ(あればで可)
4)コップ
5)洗口液(マウスウォッシュ等あればで可、緑茶でも可)
※口腔内の乾燥があれば、必要に応じて保湿剤があると尚よい
体位の確保
口腔内の汚れた水が、喉に入っていかないように気を付ける必要があります。
1)洗面台でできる方は、洗面台にてなるべく座位で行います。
2)ベッド上にて仰臥位(=あお向け)で行う場合は、汚れや水分がのどに流れないように、顔を横向きにするなど注意します。
口腔ケアの方法
1)義歯(=入れ歯)がある場合、先に外して洗います。(乾燥しないように水につけておきましょう)
2)口腔内に食物残渣(ざんさ)(=食事のカス)があれば、取り除きます。
3)乾燥がある場合は軽く水洗いするか、保湿剤があれば塗ります。
4)歯ブラシでブラッシングします。(歯を1本ずつ優しくみがくイメージ)
5)うがいができる方はブクブクうがいをして、口の中に溜まった汚れをしっかりと吐き出します。
6)うがいが難しい場合、スポンジブラシにて歯の表面や粘膜をふき取ります。
7)舌ブラシで、舌をふき取ります。(ゴシゴシすると舌を傷つけるので注意します。)
8)上あごに痰(たん)等の付着物がある場合、湿らせて十分にふやかしてから取り除きます。
9)最後に口の中を確認して、義歯は忘れずに再び装着します。
チェック2:食事の姿勢
姿勢が不安定で緊張が高くなると、誤嚥の原因になる危険性があります。その方の嚥下機能に合わせて、ベッドアップ方法などを検討します。
嚥下障害のある方にとって安全と言われている姿勢
1)ベッドアップ30度~45度から様子を見る
●解剖の構造上、気管が上・食道が下になる為、重力を利用して嚥下することで、誤嚥しにくい姿勢と言われています。
●食後すぐに頭を下げると、逆流性食道炎等を招く恐れがあります。少なくとも30分程度はベッドアップしておきましょう。
2)あごを軽く引く(頸部前屈位をとりましょう)
●前屈する姿勢をとることで、誤嚥の危険性が低くなります。
●ご高齢で背中が曲がった方(円背の方)は、あごを引いて前を向いているように見えても、実は首がまっすぐで顎が上がっている場合があるので注意しましょう。
●枕やクッションを使って、あごを引いた姿勢を保持すると良いです。
※基準として、あご先と鎖骨の間に指が4本入る程度です。
チェック3:食事形態・水分形態
嚥下障害がある方にとって、食事に適している食事形態・適さない食事形態(誤嚥を招く恐れがある形態)があります。
嚥下しやすい食材や食品の条件
1)密度が均一であること
2)適度な粘度があって、バラバラになりにくいこと
3)口腔や咽頭(いんとう)を通過するときに、変形しやすいこと
4)ベタつきがなく、粘膜に付着しにくいこと
5)しっかりとした濃いめの味がすること
6)口の中で液体に変わらないこと
嚥下しやすい食材代表「ゼリー」
嚥下しやすい条件に当てはまる食品の代表は「ゼリー」です。かまずにそのまま嚥下することで、口腔内や咽頭に残りにくく、スムーズに通過しやすいためです。ただゼリーにも食べにくいとされているものがあり、「離水しやすいもの・離水した液体がサラサラしているもの」は嚥下障害のある方にとって誤嚥の危険性が高まります。離水とは、例えば、ゼリーを口の中に入れた後、飲み込むまでに時間がかかる場合、口の中で温まったゼリーが徐々に液体になった状態です。液体は誤嚥しやすい食材に分類されており、注意が必要です。
嚥下しにくい食材・食品
1)水分:水・お茶
2)酸味の強いもの:酢の物・柑橘類
3)パサつきやすいもの:ふかし芋・ゆで卵・焼き魚
4)弾力の強いもの:こんにゃく・かまぼこ等の練り物
5)喉(のど)にはりつくもの:もち・わかめ・のり
6)粒が残るもの:ピーナッツ・大豆
7)繊維の強いもの:ごぼう・ふき
8)水分と固形に分かれやすいもの(二相性食品):具が入っている味噌汁・みかん・高野豆腐)
二相性食品(液体と固形物に分かれる食品)とは
味噌汁や具材のたくさん入っているスープなど、液体(水分・汁もの)と固形物(食べ物)が一緒になっている食事に関しては、特に注意が必要です。具材をかんでいる間に、汁物などの液体が先に喉(咽頭)まで入ってしまうため、誤嚥の危険性が高い食べ物です。みかんなどの水分を多く含んでいる食べ物や、煮汁をたくさん含んでいる高野豆腐など、咀嚼をすることで液体と固形物に分かれてしまう食べ物も、二相性食品です。食べる際は注意しましょう。
チェック4:食事介助の方法
嚥下障害の方や高齢の方などが安全に経口摂取を継続していくため、食事介助の方法について確認しましょう。
1)ゼリー等を乗せたスプーンを舌の中央くらいまで入れる。
2)口を閉じてもらう。
3)上口唇に触れながら、スプーンを引き抜く。
4)あごを引いた姿勢(頸部前屈位)か確認する。
5)口を閉じて、飲み込んでもらう。(嚥下してもらう)
※嚥下するときに口を閉じることはとても大切です。口が開いたまま嚥下すると咽頭残留や誤嚥の危険性が高まります。
6)嚥下したことを確認して、次の食事を介助する。(1に戻る)
食べやすく、介助しやすいスプーンの形
1)食べ物をすくいやすい
2)ゼリーをスライスしやすい(スライス法がしやすい)
3)ひと口量が多くなりにくい
4)口に入れやすく、引き抜きやすい
5)舌の上に食べ物をのせやすい
その他)かみこみがある方などは、シリコンスプーンを使用するのも有効な手段です。
適切なひと口量
ひと口量は、実は「多すぎても、少なすぎても食べにくい!」ということをご存じでしょうか。経口摂取を開始する際の安全なひと口量の目安を確認してみてください。
1)固形物や半固形物(例:ゼリーやヨーグルト):ティースプーン半分~一杯(3ℊ程度)から
2)液体の場合:ティースプーン1杯程度(2~3ml)から
多すぎるカレースプーンの1杯量
カレースプーンの1杯量は15ℊ程度あります。嚥下障害の方にとっては、15gは多すぎて危険です。また、反対にひと口量が少なすぎると、口の中の刺激が足りずに嚥下しにくいと言われています。安全に嚥下できるひと口量は、意外と少ないのです。
スライス法について
ゼリーを短冊のようにスライス型になるようにすくって介助する方法です。安全な理由として、スライス法で口の中に取り込んだゼリーをかまずにそのまま嚥下することで、口腔内や咽頭に残りにくく、スムーズに通過しやすい点が挙げられます。
手順
①ゼリーの中心にスプーンを垂直にさして、半分になるように切る。
②半分に切った中心線から、5㎜ほどずらしてスプーンを垂直に差し込む
③スプーンをゆっくりと持ち上げてゼリーをスライス型に切り取る。
④位置をずらしながら、同じようにゼリーをスライス型に切り取っていく。
介助者の位置
介助者は、必ず食べる方と同じ目線になるようにします。顔の上方から介助すると、あごが上がります。あごが上がった状態では、頸部がリラックスできずに飲み込みにくい姿勢となります。
「チェック2:食事の姿勢」でも挙げたように、安全な食事姿勢はあごを引いた頸部前屈位の姿勢です。
ベッド上でベッドアップして食事をする方も、介助者は椅子に座って、同じ目線になるように調整をします。立って介助すると、顔が上を向きやすくあごが上を向いて、頸部前屈位の姿勢になりません。
食べるペース
「ひと口ごとにごっくんと嚥下する」ことを見て、次の食事を介助する事が大切です。食べる側も介助する側もあせらず、このペースに気を付けて行いましょう。
ムセない誤嚥;不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)
誤嚥していてもむせないことがあります。これを不顕性誤嚥といいます。外見では非常に判断しにくく臨床の現場では嚥下造影検査等の検査をして判明することもしばしばあります。実は高齢者や嚥下障害の方に意外といらっしゃいます。
食事の途中で、飲み込んだあとに声を出してもらって確認し、必要によっては咳払いを促しましょう。
1)食べ物を嚥下したあと、「あー」や「えー」と声をだしてもらう。
2)もしガラガラした声だった場合、食べ物などが咽頭に残留している可能性があります。このままにしておくと、誤嚥する危険性があります。咳払いを促しましょう。
口の中や咽頭に食べ物が残りやすいときは「交互嚥下」
交互嚥下とは、固形物などの食べ物を嚥下した後に、ゼリーやとろみ茶などの水分を交互に嚥下する代償方法のことです。口腔内や咽頭に食べ物が残留した際、ゼリーなどと一緒に嚥下することで、残留した食べ物を減らす効果があります。嚥下障害の重症度や残留の程度によって、「ひと口ごと」・「数口ごと」・「食事の最後に」などの方法があります。
チェック5:食事をする環境
安全に経口摂取をするためには、食事に集中できる環境を整えることも大切です。
1)注意散漫になりやすい場合、テレビを消す。
2)食事中には、むやみに話しかけない。
3)食事の終了時間も気になるが、「早く食べて」などと食事をせかさない。
4)上下肢の麻痺などがある場合に自助食器や自助具を検討する等、その方の機能に合った食器類を使用する。
食事時間は30分以内を目安に
だらだら時間をかけて食べると疲労も蓄積し、食事に対する集中力も低下しており、誤嚥を招く恐れがあります。長くても30分以内で済ますように心がけましょう。もし、30分程度で食べ終えることが難しい場合、原因はさまざまだとは考えられますが、①「米飯⇒粥にする」「固さをふつう⇒柔らかめのおかずにする」といった食事形態を変更する方法や、②食事内容量を減らして補助食品を追加する等の工夫をしてみましょう。
まとめ
今回は摂食嚥下障害がある方に対して、自宅で行える介助の方法や、姿勢、食事形態についてお話ししました。誤嚥は肺炎につながることがあり、その後寝たきりになったり死亡するケースもある非常に注意が必要なものです。
ご自身やご家族の事で、食事の飲み込みは大丈夫なのか、食事の形態が今あっているのか、食べ方が早すぎてこのペースはいいのか、どんな姿勢が誤嚥しにくいのかなど、お食事に関わることで気になることがある場合、福あーるでは言語聴覚士が在籍しておりますのでお気軽にご相談ください。