2024/01/30
災害時のお口のケアについて~水が確保できない場面での口腔ケア~
この度は、能登半島地震で被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。
地震大国日本では、日本のどこに住んでいても地震に見舞われるリスクがあります。かつて起こった東日本大震災、熊本地震などで断水した地域では、口の中を歯磨きなどで清潔に保つことが難しい環境になったことで、口の中の細菌が唾液とともに肺に流れ込んで肺炎を起こす「誤嚥性肺炎」の患者が増え、死亡するケースもありました。
「災害関連死」として肺炎は最も注視するべき病気の一つです。
今回は「誤嚥性肺炎」を予防するため、水が不足している環境でも行える「口腔ケア」の方法についてご説明します。
これから起こるかもしれない災害の備えの一つとして「口腔ケア」のことも考える機会になればと思います。
目次
災害発生時は何が起こっているのか?
災害発生時、被災された方は避難所などでの生活を余儀なくされ、ゆっくりと休めない環境にあります。不規則な生活でストレスや睡眠不足が原因で体の不調を感じる方も多くおられます。
体の不調と同じようにお口の中も不調を感じる方も多くおられます。
災害発生時のお口の不調は?
災害時は、精神的に緊張状態が続くことで唾液が出にくくなり、口の中が乾燥します。
また、通常の生活と比べて食事のバランスをとることが難しくなり、栄養状態が悪くなります。
さらに、水を確保することも難しい環境であり、歯磨きができません。
免疫力が低下し、口腔内で繁殖した菌などが体内に侵入すると、肺炎(誤嚥性肺炎)やインフルエンザ、風邪などの呼吸器感染症にかかりやすくなります。
お口のケア(口腔ケア)をすることで、これらを予防する効果があります。
口腔ケアが特に必要な方は?
・要介護状態で、自身で口腔ケアのできない方
・自身で口腔ケアができても、嚥下障害のある方
・嚥下障害の自覚はなくても、肺炎(誤嚥性肺炎)の既往がある方
上記の方は、特に口腔ケアが必要な方と言えます。
小さなお子様や、高齢の方は十分な注意が必要です。
誤嚥性肺炎については、寝ている間に、ムセがなくても唾液を誤嚥している場合があります。
これを「不顕性誤嚥」といいます。お口の中が汚れていると、細菌を多く含んだ唾液を誤嚥するため、「誤嚥性肺炎」になるリスクも十分にあります。
歯磨きができない環境での口腔ケアの方法
チューブタイプの歯磨き粉は、口の中に残っていると乾燥を誘発しやすいため、なるべく使用しないようにしましょう。特に研磨剤を使用しているタイプの歯磨き粉は、吸湿作用が強く、口の中に残ると乾燥を助長しやすいと言われています。十分にうがいができない環境では使用しないようにしましょう。
少しの水がある場合の口腔ケア
うがいは一度にたくさんの水を含んでブクブクするよりも、「できるだけ少量の水でブクブクして吐き出す」を繰り返したほうが効果的です。
具体的には15ml程度の少量の水で、くちびるをしっかり閉じてブクブクうがいをします。
できれば2回繰り返してうがいをしたほうが、口の中の汚れを浮かしたり、薄めることができます。
お茶がある場合は、お茶でうがいをすることも可能です。
水がない場合の口腔ケア
水がない場合でも、市販品で使用できるものがあります。普段の生活で使用しておられる方もいると思いますが、非常時にも役立ちます。可能な範囲で非常用持ち出し袋に入れておくことをおすすめします。
①シュガーレスガム、キシリトールガムをかむ
シュガーレスガムをかむことで、ストレスの軽減や緊張を緩和する作用があります。また、かむことで唾液を出す効果があり、その唾液で口の中を潤して口をすすぐこともできます。
②マウスウォッシュを使って口をすすぐ
マウスウォッシュ(洗口液)や液体歯磨きを使用することで、口腔内の細菌繁殖を抑える効果があります。口の中への刺激が少ないノンアルコールタイプがおすすめです。
③市販の歯磨きティッシュや、ハンカチ、タオルで歯の表面の汚れをふき取る
歯ブラシがない場合でも、歯のお手入れに効果があります。
入れ歯のお手入れ方法は?
できれば毎食後、少なくても一日に1回は入れ歯を外してお手入れすることをおすすめします。
水がない場合でも、ウェットティッシュなどでふき取って汚れを落としましょう。
その他にお口の健康のためにできること
非常時は慣れない環境でストレスを受けやすく、緊張感も高くなることで唾液がでにくくなることがあります。唾液には口の中の汚れをきれいに洗い流す作用もあり、乾燥を予防することで様々なメリットがあります。お口の体操や唾液腺マッサージをすることで、唾液の分泌をうながしましょう。
嚥下体操(えんげたいそう/お口の体操)
顔や首の筋肉の緊張を和らげたり、鍛えたりすることが目的です。
お食事の前に行うとより効果的です。
※首に障がいがある方はお医者様に相談して行なうようにしてください。
①姿勢
リラックスして腰かけた姿勢をとります。
②深呼吸
鼻から吸って、口から吐いて、ゆっくり深呼吸をします。
③首の体操
1.ゆっくり首を左右ともに横にねじります。
2.耳が肩につくように、ゆっくりと首を左右に倒します。
3.首を左右にゆっくりと1回ずつ回します。
④肩の体操
1.両手を頭上に挙げ、左右にゆっくりとさげます。
2.肩をゆっくりと上げてからストンとおとします。
3.肩を前から後ろ、後ろから前へゆっくり回します。
⑤口の体操
1.口を大きく開けたり、口を閉じて歯をしっかりかみ合わせたりを繰り返します。
(「あ」➡「ん」を5回くりかえす)
2.口をすぼめたり、横に引いたりします。(「う」➡「い」を5回くりかえす)
⑥頬の体操
口をしっかり閉じて、頬をふくらませたり、へこませたりします。(5回くりかえす)
⑦舌の体操
1.舌をべーと出します。舌を喉の奥の方へ引きます。(前に5回)
2.舌先を口の両端につけます。(左右に10回)
3.鼻の下、アゴの先をさわるように、舌を上下に動かします。(上下に5回)
⑧発音の練習
「パ・タ・カ・ラ」を大きく口を動かして、ゆっくり、はっきりと繰り返して言います。
(5回繰り返す)
⑨咳ばらい
お腹を押さえて「エヘン」と咳ばらいをします。
唾液腺マッサージ
お口の中には唾液腺と呼ばれる唾液の出やすいポイントがあります。
唾液の分泌を促すために、唾液腺を刺激することを唾液腺マッサージといいます。
唾液が増えるとお口の中が潤い口腔ケアが行いやすくなります。
また、自浄作用が増すため虫歯になりにくくなったり、食べること、しゃべることがしやすくもなります。
① まずは唾液腺の位置を確認します。
② 耳下腺の刺激(10回)
耳の横を指で後ろから前に向かって回すようにマッサージをします。
③ 顎下腺の刺激(5か所)
指を下アゴの骨の内側の柔らかい部分にあて、耳の下からアゴの下まで5か所くらいを順番に1~2秒押します。
④ 舌下腺の刺激(5回)
両手の親指をそろえ、アゴの真下から舌を突き上げるようにグッと押します。
まとめ
マッサージはやってみていかがだったでしょうか?少しの刺激でも唾液の分泌が出てくると思います。
地震は、日本に住まう誰もが、いつ・どこで同じことが起こってもおかしくありません。
家に水や食料などを備蓄していらっしゃる方もおられると思います。
いつか起こる災害の備えの一つとして「口腔ケア用品」の準備もご検討してみてください。