2024/04/01
自閉症スペクトラム(ASD)の特徴と接し方
自閉症スペクトラム(ASD;Autism Spectrum Disorder)という言葉が使われるようになったのはここ10年ほどのことですが、もともとは自閉症やアスペルガー症候群と言ったり、広汎性(こうはんせい)発達障害と言われていました。「スペクトラム」というのは「連続体」という意味であり、イギリスの児童精神科医ローナ・ウイングが提唱した概念です。「様々な特性は、人によってグラデーションや強弱があり、明確に分けられるものではなく、また同じ人でも年齢や状況によって変化する」ということから、境界線のないひとつの障害だと考えられるようになってきました。
今回は、自閉症スペクトラムと診断された方や子どもさんとのかかわり方の工夫についてお話ししていきたいと思います。
目次
自閉症スペクトラムに原因はあるのでしょうか?
はっきりとした原因は実はわかっていません。
①神経内分泌系の調整障害
②神経伝達物質の代謝異常
③脳の特定部位の障害
④遺伝子異常
⑤環境ホルモン
との関連などが指摘されています。
生まれつきの特性であるため、育て方や環境が原因となることはありません。
どんな特徴があるのでしょうか
自閉症スペクトラムの方は「臨機応変な対人関係が苦手で、自分の関心・やり方・ペースの維持を最優先させたい」という特徴が挙げられます。
前向きな表現をするなら、自分のペースでコツコツがんばり続けることができる人です。世間的には「少し変わった人」程度で済んで、問題なく日常生活を送れることも十分にあります。
しかし、自分に合わない環境におかれてしまうと日常生活に様々な障害を及ぼしてしまうことがあります。
つまり、障害になるパターンもありますし、障害にならないパターンもあります。
大きく4つの特徴が挙げられます。
① 社会性の問題
② コミュニケーションの問題
③ 行動、興味のかたより
④ 感覚の異常
以下に、例をあげます。
①社会性の問題
〇目線を合わせることができない
〇注意されているのに笑う
〇同年代の子どもと遊べない
〇暗黙のルールがわからない
②コミュニケーションの問題
≪言葉を用いたコミュニケーションでの特徴≫
〇言葉の遅れがある
〇「おうむ返し」が多い
〇言葉による指示を理解できない
〇会話をしていてもかみ合わない
〇皮肉を言っても通じず、たとえ話がわからない
≪言葉を使わない非言語的コミュニケーションでの特徴≫
〇身振りや指差しが理解できない
〇目線(目の動き)が理解できない
〇相手の表情や口調などから情報をくみとることができない
〇話の文脈、話の間(ま)が理解できない
〇相手の手を使って何かをさせようとする(クレーン現象)
③行動、興味のかたより
〇積み木を積まずに一列に並べるなどそのおもちゃ本来の遊び方をしない
〇特定の手順をくりかえすことにこだわり、変化することを嫌う
〇常同的(外から見ると意味のわからない繰り返す動作のこと、体をゆする、手をたたく、同じ場所をうろうろする、爪をかむなど)な動作をくりかえす
〇興味を持った領域に関して膨大な知識を持つ(鉄道、天文学、生物、地理、コンピュータ、テレビゲームなど様々なパターンがあります)
④感覚の異常
〇味覚、嗅覚に異常があることによる偏食
〇皮膚の感覚が過敏で、ちょっと触られただけでも痛みを感じたりする、抱っこができない、つま先立ちで歩く
〇聴覚過敏があり、特定の音を極端に嫌ってパニックを起こす
自閉症スペクトラムを持つ方とのコミュニケーションの5つの工夫
様々な特徴がある自閉症スペクトラムですが、その特徴が良い方向にはたらいている方々もおられます。
有名人の中でも米津玄師さんやスティーブ・ジョブズさんは自閉症スペクトラムであることを公表していますし、アインシュタインも自閉症スペクトラムであったと言われており、社会の中で素晴らしい功績をおさめることもあります。
自閉症スペクトラムの方は言葉の意味や場の雰囲気を理解したり、表情を読み取って相手とやりとりすることがうまくできません。本人に対して、ご家族や周りの方がどのように接すると良いのかがわからず、悩むパターンが多くあります。そのため、本人をとりまく周りの方にも自閉症スペクトラムについて理解してもらうことが大切です。コミュニケーションをとるにあたっての工夫や周りの方ができるサポートの仕方についてご説明します。
①眼を使う、視覚化した伝え方をする
言葉によるコミュニケーションが難しい反面、視覚情報はよく理解したり、記憶できるケースが多くあります。視覚優位といいます。指示を伝える際、具体的な物や写真、絵カード、言葉カードなど目に見える情報ツールを使うと効果的です。
② 具体的な伝え方をする
「どこでもいいよ」「どれでもいいよ」が苦手です。指示はできるだけ具体的に伝える方がその意味を理解でき混乱を招きにくいとされています。生活空間についてはどこで何をするのかを明確にし、それぞれの場所を複数の目的で使用せず、「これはこの場所!」と決まっている方が理解しやすい場合があります。時間についても、「〇〇時~○〇時に○〇をする」と具体的に伝えると効果的です。
③ 同時並行はしない
自閉症スペクトラムの方は情報を同時に処理することが困難な特徴があります。何かをしている途中に声をかけるとパニックになることがあるため、同時に声をかけるのではなく、一つのことをした後に一呼吸おいて話しかける、声をかけた後に考える時間を与えてから次の言葉をかけるなどの工夫が必要です。
④ 注意のタイミングと工夫
注意する必要があるときは、そのときに伝えないと効果がありません。なぜなら後で伝えると、場所・時間の変化により、自分のどの部分を注意されているのか理解できなくなるからです。ただ、肯定的表現ができる場合は「○〇しないで」ではなく「○〇します」と声をかけましょう。例えば、「走らないで!」ではなく「歩きましょう。」と注意します。この場合も言葉より、視覚的に絵を使ったり、×マークを用いる、怒っている表情を見せるなどがより効果的です。
⑤ 専門的療育を早期に始める
自閉症スペクトラムは脳の障害のため治ることはありませんが、症状を改善することはできると言われています。早期に療育が開始できれば、その子の特性を理解し、その子が発揮できる能力を伸ばし、将来の就労など生活のあり方全般につなげることができます。また、早期の介入によって、その先の二次的障害(パニック、自傷・他傷行為、うつ病など)の軽減を図ることができると言われています。
どのようなリハビリを行うのでしょうか
自閉症スペクトラムの方のリハビリでは、体を動かす練習や、細かい動きとして箸や、はさみなどを使う練習をすることがあります。また、感覚がうまく処理できない時には感覚統合訓練を取り入れたり、言葉の発達が気になる場合には言語療法を行います。
特に、重要となってくるのが社会性に関する練習です。言葉を使ったやりとりが苦手なため、幼少期・学童期では絵カードを使用することがあります。また、一日のスケジュールを目で確認できるように表などにしておく事で見通しがたち、本人が安心して活動に参加しやすくなります。学習に必要な物品を持ちやすくする工夫をすることもあります。不安を強く感じてパニックになったり攻撃性が見られる場合はうまくクールダウンできる方法を一緒に考えたりもします。
福あーるでのリハビリの様子
福あーるで行なっているリハビリ場面の一例です。自閉症スペクトラムの症状は多岐にわたるため、一人として同じ症状の方はおらず、リハビリもあくまで一例ですので、全ての方に当てはまるわけではありません。リハビリを希望する場合は専門の方の指示のもとで行いましょう。
●リハビリの時間をタームスケジュールで提示する。1時間のリハビリの中でどのような時間の使い方をするか、ご利用者様と一緒にスケジュールをたてます。視覚化することで安心して取り組めます。
●自分の気持ちを言葉にしづらい方の練習で、自分にとって心地がいいこと、よくないことを「好き嫌いゲーム」という名前をつけて行う。ゲーム感覚で、分かりやすく分類して自分の気持ちの整理につなげる。わからないものはわからないままでもOK。
●言語聴覚療法の使用物品:絵カードで日常生活に使用する言葉に触れます。一日のスケジュールを考えるのにも使います。ひらがなや数字などに楽しく触れる機会をつくるようにしています。
まとめ
福あーるでは、自閉症スペクトラムの診断を受けた方への看護・リハビリを行なっています。また子供さんに対してはご家庭での療育のお手伝いとして、言葉の発達練習や、行動の切り替えの練習、体の動かし方、感覚遊びなどを行います。外では環境が変わって落ち着かない子や、人がいると集中できない子など、自宅の慣れている環境で行うほうが良い場合もあり、ご両親ともたくさんお話をしながらかかわらせていただいております。
お手伝いできることがございましたら、お問い合わせください。